「粒子」について

音の理論解析では、「粒子速度」「粒子変位」などという概念を用い議論や式を展 開している。しかし、例えば室内音場を考えた場合、媒質である空気の「粒子」とは 何であろう。「分子」のことだろうか?
しかしこの世に「空気分子」など存在せず、窒素や酸素などの「分子」が混ざり合 って「空気」を構成していることは、既に高校などで学んだはずだ。さらに「分子」 は「原子」から成り、「原子」は「陽子」や「電子」、、と遡ることもできるが、上 記の「空気粒子」はこれらのいずれかを指すのだろうか。
前述のように「音」は連続した弾性体(媒質)を伝わる現象である。しかし分子レ ベルの微視的な目で室内音場を見れば、窒素や酸素ほかの膨大な数の分子がわれわれ の周りを飛び回っているだろうし、われわれの体自体、スカスカの分子の集合になっ ているだろう。こうした微視的目で音という巨視的現象を捉え、部屋の形状や聞こえ 方との関連などを議論するのは容易でなかろう。そこで(建築)音響学ではまず、媒 質が「連続体」としての性質を維持する範囲で音という現象を記述し考察するのであ る。(なお「分子やクォークなどの挙動と室内音場の評価指標との関連」などといっ た観点も、ある意味で面白いのかも知れない。)
このように、音に関する理論に再三登場する「微小」あるいは「無限小」体積 dv とは、あくまで空気など媒質の弾性体としての性質を維持するに十分な数の分子から 成る範囲での小さな体積を意味しており、決して分子レベルでのサイズは想定してい ない。そしてこの微小な「仮想的なカタマリ」のことを媒質の「粒子」と呼んでいる のである。