1999年度修士論文
コンピュータグラフィックス手法を用いた
高密度都市景観に対する
評価構造についての研究

5.シミュレーションモデルの構築 

5.1.高さコントロール手法

前述のとおり、3つの視点場からの景観は、アパート群によって非常に圧迫感を感じるものとなっている。このような高層アパート群についての景観をコントロールする概念として、3つの手法を提案したい。

5.1.1.高さ70%モデル

各ブロックの高さを一律に現状の約70%に制限するモデルである(図 18参照)。このことは同時に、アパート群全体の容積率も大幅に削減されることも意味する。現状、高層アパート群が視野の多くを占めていることを考えると、一律に高さを削減することは、景観の状況を改善するものと考えられる。しかし、ここでは高い密度を要求されている都市空間における景観を研究の対象としているのであって、このような都市空間の密度そのものを変化させるような手法は、この地域の受けている開発圧力の強さを無視したものとなってしまうと考えられる。

図 18 高さ70%モデル概念図
なお、各ブロックの高さは以下の式によって求められる。
 
ブロック高さ=アパート基準高−ブロック標高+調整値+基礎高+階数×階高+パラペット高


このうち、各ブロックの標高とは、ブロックの重心における地表面の標高である。

5.1.2.境界距離比例モデル

アパート群全体の容積率は変化させないまま、アパート団地の敷地境界から各ブロックまでの距離に応じて、アパート群の高さを変化させる手法である(図 19参照)。すなわち、敷地境界に近いブロックは低くなり、敷地境界から離れたブロックは高くなる。このことにより、敷地外からアパート群を望む景観における見かけ上の高さの低減をねらったものである。この場合は、敷地中央に位置するブロックの高さが、法規的な面あるいはアパート入居者にとっての住環境の面において、許容できないものとなることも考えられ、実際問題としては建築物の配置も検討し直す必要がある。しかし、本研究では高さコントロール手法の有効性が概念的に検討されることが主眼であることから、建築物配置の再検討は行っていない。

図 19 境界距離比例モデル概念図
なお、敷地境界から各ブロックの距離とは、ブロックの重心点から最も近い敷地境界線までの平面的な距離である。

現状の境界距離別のブロック高さ分布を図 20に示す。

図 20 現状モデルの境界距離別ブロック高さ
現状では、敷地距離とブロック高さの相関係数は0.017で、ほとんど相関がないといってよい。この場合のブロック高さを外的基準とした回帰直線の傾きは0.0053であるが、境界距離比例モデルとしては、この回帰直線の傾き(変化量)を0.2・0.4とした2種類のシミュレーションを行うこととする。

5.1.3.標高比例モデル

アパート群全体の容積率は変化させないまま、各ブロックの標高に応じて、アパート群の高さを変化させる手法である(図 21参照)。すなわち、標高の低いブロックは低くなり、標高の高いブロックは高くなる。このことにより、主要な市街地・道路の多くが位置する東から南東、南方向にかけての場所からの景観における見かけ上の高さの低減をねらったものである。この場合は、高標高地に位置するブロック(多くの場合、敷地の北西方向にあるブロック)の高さが、許容できないものとなることも考えられるが、境界距離比例モデルと同様な理由から建築物配置の再検討は行っていない。

図 21 標高比例モデル概念図
なお、各ブロックの標高とは、ブロックの重心における地表面の標高である。

現状の標高別のブロック高さ分布を図 22に示す。

図 22 現状モデルの標高別ブロック高さ
現状では、敷地距離とブロック高さの相関係数は0.211で、あまり相関がない。この場合のブロック高さを外的基準とした回帰直線の傾きは0.0539であるが、標高比例モデルとしては、この回帰直線の傾き(変化量)を0.3・05とした2種類のシミュレーションを行うこととする。

5.2.ブロック階数の設定

前項の概念によって、以下の5種類のシミュレーションモデルについて各ブロックの階数を設定した
  • 高さ70%モデル
  • 境界距離比例/変化量0.2モデル
  • 境界距離比例/変化量0.4モデル
  • 標高比例/変化量0.3モデル
  • 標高比例/変化量0.5モデル
なお、ブロック階数の設定においては、それぞれのモデルにおいてブロック高さを求めた後、これを階数に換算した。この場合、境界距離比例モデルおよび標高比例モデルでは、まず回帰直線の切片値を任意の値に仮設定したうえでブロック高さ・階数を算定し、その時の総床面積を求め、この値を見ながら、現状の総床面積に近い値になるように切片値を最小0.01m刻みで増減する作業を繰り返した。

この結果、設定された各シミュレーションモデルおよび現状モデルの階数を表 2に示す。

表 2 現状およびシミュレーションモデルのブロック階数分布


設定された各モデルの境界距離別および標高別のブロック高さ分布を図 23および図 24に示す。

図 23 境界距離別ブロック高さ
図 24 標高別ブロック高さ


表 2、図 23および図 24を観察すると、現状では18〜20階建・高さ55m前後のブロックが大半を占めるのに対し、高さ70%モデルでは12〜14階建・高さ40m前後が中心となっている。境界距離比例モデルおよび標高比例モデルでは、階数の平均は現状モデルと大差ないものの、階数・高さの分布は上下に分散し、最も分散の大きい境界距離比例/変化量0.4モデルでは、最高のブロックで36階建・高さ97mにも達している。また、敷地境界付近のブロックにおいては、現状では55m前後の高さであるのに対し、境界距離別モデル/変化量0.2モデルは50m以下、変化量0.4モデルでは40m以下に高さを押さえる結果となっている。さらに低標高のブロックにおいては、やはり現状の50m前後に対し、標高比例モデル/変化量0.3モデルで45m程度、変化量0.5モデルで40m以下に高さを押さえる結果となっている。

5.3.CGによる視覚化

この結果得られた各視点場からのCG画像に前述の図 15を合成し、シミュレーションモデル画像を得る。図 25〜図 27にシミュレーションモデル画像を示す(現状モデルも再掲)。

図 25 現状およびシミュレーションモデル画像:視点場1
図 26 現状およびシミュレーションモデル画像:視点場2
図 27 現状およびシミュレーションモデル画像:視点場3
     
 


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