「第3章 視覚的密度感指標(天空遮蔽率)による街路景観分析」の概要

(更新日: 5/21/97)


 前章では、2次元の景観画像から得られる情報を定量化して、景観の特性を評価する物理的指標を提案した。ここでは、街路と建物で構成される3次元の空間を、視覚量によって景観の特性を表示しうる物理指標を検討する。
 都市街路空間の基本的な構成要素は道路と建物である。これらの要素は、旧来より都市の景観・空間を論じる上で、議論の中心として取り上げられてきた。とりわけ、ヨーロッパでは古くから建物高さと道路幅員あるいは広場の幅の関係性が重要視されており、カミロ・ジッテは、その著書「広場の造形」1)において、歴史的都市の広場と建物の関連を分析し、芸術的原理にもとづいた建物の高さと広場の幅の比率に関する見地を考察している。また、芦原は、「続・街並みの美学」2)において、街路景観における建物高さ(H)、道路幅員(D)と建物の正面幅(W)の関係をD/H、W/Dという指標を提案し、景観の特徴を明瞭に表現している。しかしながら、建物と道路の物理的な関係が人間の視覚的環境に対してどのように影響を及ぼしているのか、正確に計量していないことから、定性的な議論に終始している。
 一方、都市の外部空間における視覚環境を計量化する手法として、一般的に用いられるものが魚眼レンズを使用した計量方法である3)。武井4)は、魚眼レンズを用いて天空率の指標により、街路空間の開放性を記述している。本章では、CGを用いてこれらの手法を補完しうる新たな指標を提示する。
 本章の目的は、都市の街路空間における景観特性を定量的に表示しうる指標を提案することである。具体的には、3次元コンピュータグラフィックスの技術を用いて「天空遮蔽率」という指標を提案する。本指標は、街路上の任意の点からの視野の広がりが建物によって遮蔽される割合を指標化したものであり、この指標が既往の魚眼レンズを用いて計量したものより優れている点は、建物の形態・道路幅員を操作することで擬似的な街区空間をシミュレーションし視覚環境を計量できる点と、建物や街路の3次元座標データから容易に街路空間の物理的特性と視覚環境との関係を定量的に把握することができる点である。
 本章の構成としては、2節で天空遮蔽率の算定手法を提示し、3節で仮想のモデル街区で天空遮蔽率の特性を確認し、4節で事例として大分市街地を取り上げて妥当性を検討し、5節で本章のまとめを述べている。

もくじに戻る