1.1. 研究の背景
近年におけるアジアの諸都市の発展は目覚しく、ドラスティックにその容貌を変化させてきた。これは第2次世界大戦後の急速な経済の発展が背景にあげられる。産業の発展、人口の集中等が急激に訪れた結果、都市は、その形容を高層化、形態を高密化させ、それぞれが本来持っていた、古くから築きあげてきた個性を失ってしまったといえる。
アジアにおいては、人口の増加、産業の促進といった施策が現在まで優先課題とされてきた。その結果としては、都市の高層化、高密化は、良好な経済発展の証である。しかし、所得水準の向上や余暇時間の増大に伴い、経済的側面だけではない、心理的豊かさに対する欲求が増大し、これまで都市が進んできた方向性に疑念の声が上がるようになった。
ヨーロッパ等の都市を概観すると、古いものと新しいものが共存した、個性に富んだ重厚な都市が多いことに気が付く。これは、ヨーロッパの諸都市は、古くから景観の整備という課題に、大きな力を注いできたからである。伝統的空間に対する評価は非常に高く、その保存は徹底的である。その結果、アイデンティティーを保った良好な都市景観が形成されてきた。これは、ヨーロッパが、アジアより早く、そして緩やかに産業の発展、人口の集中を経験したからだと考えられる。結果として都市景観は社会の変化に巧みに対応できたのではないだろうか。
現在、アジアにおいても景観の整備を求める声が強まってきている。社会生活において、景観がもつ重要性が認知されてきたからであるといえる。しかし、現状では、景観を整備し、良好な景観を創造し、アジアらしい景観を築くということは、非常に困難なことに思える。何故なら、従来までの都市の景観形成に関する研究は、そのほとんどが、欧米において開発された技術や理論であるからだ。これを表面的に受け取り、消化不良のままアジアの諸都市に適応してきた結果が現在の都市であると考えられるからだ。例えこれらを慎重に吟味し景観整備を進めたとしても、それらが我々の住むアジアという風土に適したものであるとは言い難いのではないだろうか。このことからも、従来の景観整備とは別の、つまり、アジアに適した景観とは何か、風土、民族性、歴史等様々な要素を視野に入れた景観形成の手法を考案し、アジア独自の景観を形作っていかなくてはならない。
1.2. 研究の目的
韓国の諸都市を眺めると、やはり非常に高密な空間利用がされており、一般的に、日本の3倍ともいわれる高密な空間利用がされているといわれる。韓国の首都であるソウル市もやはり同様であり、郊外においては、高層アパート群が乱立、扇のように屹立し、本来、眺望可能であったはずの地形的特性を覆い隠している。市街地においても歴史的建造物が、新たにそびえ立った高層建築物に埋もれてしまい、景観の一部としての機能を果たさなくなっている。
図 1 ソウル市写真画像(その1)
図 2 ソウル市写真画像(その2)
韓国では近年、景観整備に対する意識が非常に高まっており、良好な景観の形成は非常に重要な問題である。
本研究は、1998年度より進められてきた文部省国際学術共同研究の一環である。韓国、ソウル市を研究対象都市とし、高密度な都市空間の実態と、そこに現象する景観の形態の特徴を探り、高密度な都市空間における景観整備の方向性を探ることを目的としてきた。現在までの成果を以下に挙げる。
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98年度
景観的特長を把握するため、大量に撮影した写真画像を類型化しソウル市の景観的特長を捉えた。
これらより、ソウル市の景観的特長として、山、そして高層建築物が今後のキーワードとなることを理解した。
99年度
地域住民の景観に対する意識をアンケート調査によって分析した。
ソウル市郊外に乱立する高層アパート群に関しての研究を行った。
アンケート調査による分析から高層建築物、自然景観で山という要素が重要視されていることを確認した。
高層アパート群に関する研究においては、高層住宅群の視覚的状況と評価の関係を把握した。
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主として、ソウル市郊外に広がる高密なアパート団地についての研究を進めてきたわけであるが、市街地においても高密であるが故の歪が生じている。特に、市街地における歴史的建造物の埋没は顕著である。こうした中、歴史的建造物を含む研究対象地域を抽出し、コンピュータグラフィックス技術を用いこの地域を再現し、更に数パターンのシミュレーションモデルを作成、これらのモデルをアニメーション化し、高層建築物が、歴史的建造物が存在する景観に与えている影響を把握することを目的とする。
1.3. 研究のフローと論文の構成
図 3 研究のフロー
本論文は本章を含む全7章で構成される。
「第1章」では、本研究の背景、意義、目的、研究の構成および方法について概説する。
「第2章 ソウル市の概要」では、本研究の対象地域として取り上げたソウル市について、その概要を述べる。
「第3章 研究対象地域について」では、研究対象地域を選定するまでの経緯、さらに研究対象地域において実施された現地調査に関する方法、その結果などについて報告を行う。
「第4章 現状モデルの構築について」では、研究対象地域を、コンピュータグラフィックス技術を用いて再現するまでの作業手順を解説する。
「第5章 シミュレーションモデルの構築」では、シミュレーションモデルの構築に関して、その代替案を説明し、シミュレーションモデルのコンピュータグラフィックス画像を考察する。
「第6章 アニメーションの作成」では、アニメーション作成の手順を解説、アニメーションを考察し、研究対象地域の景観を総評する。
「第7章 総括」では、本研究全体の総括を行い、今後の課題を述べる。
最後に、謝辞を述べ、参考文献について記す。
1.4. 研究の方法
本研究では、コンピュータによるデータ処理を全面的に活用しており、そのプラットフォームとして主に以下のハードウェア、ソフトウェアを利用した。
□ハードウェア
IBM/AT互換パーソナルコンピュータ
イメージスキャナ
フィルムスキャナ
□オペレーティングシステム
Windows 98
Windows NT
Windows 2000
□グラフィック
AutoCAD
HO_CAD
JW_CAD
3D Studio MAX
Adobe Photoshop
Adobe Illustrator
□エンコーダー
ScanBMP Monkey
TMPGEnc
□プレゼンテーション
Microsoft Excel
Microsoft Word
Microsoft PowerPoint