第3章                   研究対象地域の概説

3.1.    研究対象地域の選定

 

3.1.1.      歴史的建造物の現状

 

 ソウル市、特にソウル市中心部には多くの歴史的建造物が散在している。8に散在する歴史的建造物の一部を示す。

 

8 ソウル市市街地における歴史的建造物

 

 上図に挙げた歴史的建造物を含め、ソウル市内には約40の歴史的建造物が存在している。さらに、その多くが周辺地域の高層化、高密化の影響を受けており、早急な景観の整備が叫ばれている。また、上図の地域はソウル市の中心市街地にあたる。この地域における開発は激しく、現在もなお、多くの高層建築物が建設中である。また、これら高層建築物の建設は、現存するもの、および建設中のものを含め、歴史的建造物との景観的調和を全く無視している。こうした中、歴史的建造物が、本来、空間内で持つ存在感は完全に損なわれ、また、個々の建築物としての美を感じることも難しい状況である。周辺景観の中の一部と成り得ず、孤立した状態に置かれ、その景観的価値を著しく損なっている。今後も都市の高層化、高密化はますます進展していくと予想でき、深刻な景観的問題がここに介在していると考えられる。

 

 

3.1.2.      南大門について

 

9 南大門

 

南大門は、新首都の正門として、1398年に完成した。その後、数回の改築・補修を加えられ、現在に至っている。特に大きな改築・補修は14481479年の改築工事である。このとき南大門は、再建ないしは「新作」といわれるほどの大改築が行われたと考えられる。続いての改築は、南大門の傾頽が著しいための改築工事で、このとき屋根が入母屋から現在みるような寄棟に改造された。南大門の建築は朝鮮半島の城門建築を代表するものといえ、現在、国宝第一号に指定されている重要な建築物である。つまり、観光資源としての側面、景観的な側面、歴史的側面、様々な意味で非常に重要な建築物であるといえる。また、現在、南大門はソウル駅とソウル市役所とを結ぶ幹線道路のほぼ中央に位置し、さらに、南大門市場を脇に控える。

3.1.3.      研究対象地域の決定

 

 南大門が様々な側面から非常に重要な建築物であることは先に述べたが、それにもかかわらず南大門が現在おかれる状況は極めて深刻である。これは城門建築であるが故、他の歴史的建築物と異なり、周囲に広い敷地を持たず、周辺地域の無計画な高層化、高密化の影響を何の干渉もなく受けているからだと考えられる。さらに、この周辺地域は、ソウル市市街地の中でも最も都市活動が活発な地域であるといえ、現在なお、多くの高層建築物が建設中である。そこで、本研究では南大門周辺を研究対象地域とすることに決定した。10に決定した研究対象地域を示す。

 

10 研究対象地域

3.2.    現地調査について

 

 

3.2.1.      調査の目的

 

当初、日本において、可能な限りの研究の基礎資料を収集したが、十分な資料を得ることが出来なかった。そのため、現地調査の実施を計画するに至った。現地調査は研究対象地域の3次元モデル作成に必要と考えられる基礎的資料の収集を目的とした。具体的な調査の目的を以下に述べる。

 

研究対象地域の地図の入手。

南大門の図面の入手。

南大門のテクスチャの撮影。

南大門を中心にした景観写真の撮影。

研究対象地域の建物高さの調査

研究対象地域の建物テクスチャを撮影。

 

以上6項目を調査の目的とした。

 

 

3.2.2.      調査の方法

 

調査内容は主として写真画像の撮影、収集である。景観写真の撮影に関しては、50mmレンズのカメラを使用し撮影することを原則とした。しかし、テクスチャに関する撮影に関しては、調査日程、カメラの台数、調査員の人数等を考慮し、デジタルカメラでの撮影を可とし、即時、ノート型パソコンにデータを入力しつつ撮影を行うこととした。また、夕刻の撮影は写真の赤焼けを防ぐため、原則として行わないこととした。さらに、各調査員は事前に作成した調査表、調査地図を携帯し、撮影の際、随時、これらへの記入することとした。

 調査地図は、現地調査前に最新の地図を入手することができなかった。そこで、現地でこれに替わる最新の地図が入手出来次第、交換、必要事項を書き込み使用することとした。調査表は、事前に作成した仮の現地調査用の地図を元に作成された。調査地図を次頁の11に、調査表を2、示す。


11 調査地図

 

2 調査表

 

調査地図は、交通地図に視点場、区画、建物の番号を記入したものである。これを基準に撮影した景観写真、テクスチャ写真の視点場、視対象等の写真の属性を、調査表に書き込むことで、現地調査をスムーズに、調査後のデータ整理の作業が円滑に進むよう考慮した。ただし、研究対象地域の開発は非常に速く、状況が常に変化しているため、調査員各自は、調査地図を修正しながら調査を遂行することとした。

 

 

3.2.3.      調査結果

 

現地調査は本研究室のメンバーで構成される3名により行われた。構成された調査員を以下に示す。

 

教授:佐藤 誠治(Seiji SATO)

学生:李 衡馥(Lee Hyung Bok、D1) 中野 敏明(Toshiaki NAKANO B4)

 

調査日程は20001028日から1031日までの4日間で実施されたが、初日は時間が現地への移動のみに費やされたため、実質3日間という強行日程となった。

調査より得られた資料、データを以下に示す。

 

最新のソウル市交通地図を入手

研究対象地域周辺のパンフレットを入手。

修理改築の報告書を入手し、南大門の図面を取得。

南大門のテクスチャを撮影。(計9枚)

南大門を中心にした景観写真を撮影。(計37枚)

研究対象地域の建物階数を調査し、データとして取得。

研究対象地域の建物テクスチャを撮影。(計198枚)

 

 

調査後、撮影した写真、南大門の図面についてはフィルムスキャナでコンピュータ上に保存した。写真画像は大別して、建物テクスチャ画像、南大門テクスチャ画像、南大門を中心とする景観画像の3種類に分類することができる。建物テクスチャ画像については、これを表に整理した。その一部を次頁の3に示し、コンピュータ上に保存した写真画像について、代表的なものを以降121314に示す。

 

3 建物データ

12 建物テクスチャ画像 A_01_b

 

3について解説すると、区画、建物番号はあらかじめ地図上で決定していた番号である。階数は現地調査で判明した建物に関しての階数であり、写真の有無は、写真画像がデータとして存在するものは”1”、存在しないものには”0”と記入し入力した。データとして入手できた写真画像に関しては画像ファイルの名前として区画、建物番号を組み合わせ、番号をつけ、同一建築物の写真画像が複数存在する場合はaから昇順に番号をつけることとした。つまり、12”A_01_b”とはA区画の01の建物の、bつまり2枚目のテクスチャ画像となる。

 

13 南大門テクスチャ画像

 

図14 南大門を中心とする景観画像

 

上図に示した写真画像からも南大門周辺に大変高層な建築物が建ち並んでいるのが分り、景観的問題が発生しているのが分る。