4.1. 現状モデル構築の概念
研究対象地域は、南大門を中心に広幅な道路が放射状に広がっている。南大門はその道路の収束地点の中央で完全に孤立した状態でたたずんでいる。このような状態にもかかわらず、南大門を望むことが可能な地点は非常に限定され、様々な角度や距離から南大門を望むことは出来ない。我々は歩行中に車道から南大門を望むことができず、一部の歩道から、街路樹をかき分けるように覗き見ることしかできないのだ。そこで、研究対象地域の現状モデルを構築、研究対象地域を視覚化することで、南大門が現在置かれている状況を様々な角度から把握し、現状の問題点等を考察することにした。
モデルの構築手順の概略を以下に示す。
図15 3次元モデルの構築のフロー
3次元モデルの構築は図15に示すように、大きく5段階で進められる。本研究では、さらに大略し2つに作業を分割、現状モデルを構築した。図16にフローを示す。
図 16 現状モデル構築のフロー
作業の分割は、南大門および研究対象地域における建築物の2つのモデルが目標とする、完成後およびモデル構築作業の精度が大きく異なることと、作業手順の相違が予測されたからである。南大門は本研究のシンボルとなる存在である。その外観は曲線部分が多く、複雑な部分が多い。その3次元モデル構築には高い精度が必要であると考えられた。また、研究対象地域の建築物の3次元化は、建築物の個数は多いものの、個々は直線で構成される部分が多く、モデリング作業は比較的容易と推測された。しかし、今後、シミュレーションモデルを構築する際、変形を余儀なくされるのは必然である。よって、今後の変形が困難にならないよう考慮しつつ、モデルの構築にあたる必要があった。そこで、本研究では、南大門の構築と研究対象地域の建築物の構築を分割し、3次元モデルの構築をすすめた。
4.2. 2次元データの作成
4.2.1. 南大門の2次元データ作成
南大門修理報告書を基本データとし、南大門の2次元データを作成した。2次元データの作成手順について、以下に図表を交え解説する。
@南大門修理報告書掲載の図面をイメージスキャナでコンピュータ上に読み込みbmp形式で保存した。
図 17 南大門図面
図面は上層、下層の平面図、X、Y方向の断面図、各方角からの立面図、屋根伏図を取り込んだ。
A平面図、断面図に関して、bmp形式のラスターデータをScanBMP Monkeyを使用し、dxf形式のベクターデータに変換した。
図 18 南大門図面(ScanBMP)
Bこの時、dxf形式に変換されたデータは、非常にデータ精度の粗いものであるため、HO_CAD、JW_CAD等のCADソフトを使用し、修正加工を施した。
図 19 南大門図面(dxfデータ)
C最後にAutoCADでdwg形式にデータを保存した。
ソウル市道路交通地図をコピーし、現地調査で修正を加えたものを基本データとし、研究対象地域の2次元データを作成する。2次元データの作成手順について、以下に図表を交え解説する。
@地図をイメージスキャナでコンピュータ上に読み込み、bmp形式で保存した。
Aこのbmp形式のラスターデータをScanBmp Monkeyでdxf形式のベクターデータに変換した。
図 20 研究対象地域地図(ScanBMP)
B変換されたdxf形式のデータをHO_CAD、JW_CAD等のCADソフトを使用し、修正加工を施した。
図 21 修正した地図
Cさらに、修正加工が施されたデータをAutoCADで読み込み、dwg形式のデータに変換した。
図 22 研究対象地域地図(dwgデータ)
本来、dxf形式のデータは、多くの2次元、3次元モデルを作成するソフトウェアで扱うことができ、万能なフォーマットと感じることができる。しかし、dxf形式のデータは、各ソフトにそれぞれ方言のような微細な違いが存在し、ソフトウェアをまたぐことによって様々な不具合を生じる。このため、事前に最終的に扱うこととなる3次元モデルを構築するソフトウェアを比較検討し、決定することで、あえてdxf形式のデータをAutoCADで読み込み、dwg形式で保存した。
Dこのdwg形式のデータに、区画、建物番号、さらに現地調査で得た建物高さ、景観写真の視点場の情報等を加えた。データは敷地線、各階数の建物、文字情報等によって画層ごとに細分化し整理した。
4.3. 3次元モデルの構築
4.3.1. 南大門の3次元モデルの構築
AutoCADで作成されたdwg形式の2次元データを参考データとし、3次元モデルの構築を行う。3次元モデルの構築は3D studio MAXを使用する。当初、Shade、Light Wave、POV-Ray等、様々な3次元ソフトを比較しその使用を検討したが、研究対象地域におけるモデル構築にAutoCADを使用し、これと互換性の高い3D studio MAXへデータを移植することが最適と考えられたため、3D studio MAX によって、3次元モデルの作成を行った。3次元モデルの作成手順について、以下に図表を交え解説する。
@まず、3D Studio MAXで南大門の各部材、柱、梁等を作成した。
Aこれを2次元データで各部材の座標値を確認しつつ、3次元上に配置していった。
図 23 部材の配置
B続いて、景観写真画像と比較し、これを参考に修正を加え、リアリティの向上につとめた。修正はワイヤーフレームの状態でポリゴンに修正加工を加えた。
図 24 南大門モデル(ワイヤーフレーム)
Cモデリングの完了した南大門にテクスチャをマッピングしていく。
図 25 南大門モデル(モデリング)
テクスチャは南大門テクスチャ画像を加工修正しマッピングする。テクスチャの作成はすべてAdobe Photoshopで行った。修正は可能な限り行わず、質感を活かし、必要最低限の修正加工に抑制した。
図 26 南大門テクスチャ
また、本研究では組み手などの再現は行っていない。そこでこれらもテクスチャとしてモデルにマッピングし表現することにした。
図 27 組み手テクスチャ
組み手を詳細に再現しなかった理由を述べると、作成時間、データ容量等の節約をするためということが述べられる。
Dさらに、バンプ処理を施し、モデルに凹凸感を与える。バンプマップはテクスチャをグレースケールに色調補正したものを使用した。
図 28 バンプマップ
E最後にモデリングの完了したモデルにテクスチャをマッピングする。
図 29 南大門モデル
4.3.2. 建築物の3次元モデルの構築
AutoCADで作成されたdwg形式の2次元データを基本データとし、3次元モデルの構築を行った。3次元モデルの作成手順について、以下に図表を交え解説する。
@AutoCADで作成されたデータを3次元ソフトである、3D Studio MAXで読み込む。読み込む際、レイヤ属性を引き継ぎ、3D Studio MAX独自のフォーマットであるmax形式で保存した。
これに高さを与えるのだが、現地調査で得た各建物の建物階数を基準に建物高さを設定する。表4に示す。
表 4 建物高さ
本来、同一階数の建築物が高さも同じく等しくなるということは当然ありえない。しかし、現地調査等での資料収集より得ることが出来たデータには、当然、限界がある。そこで、表4に示すように階高を3mと決定し、各建築物に高さを与えた。さらに、景観写真等と比較し、写真画像と明らかに高さに違和感があるものに関しては微調整を行った。高さを与えモデリングしたものを図30に示す。
図 30 建物モデル(モデリング)
Aモデリングしたオブジェクトの高さ方向のセグメント数を3に設定した。これは建物オブジェクトにテクスチャをマッピングする際、建物上部、中部、下部にそれぞれ異なったテクスチャをマッピングするためである。高さ方向のセグメントを3にすることで、これが可能になる。
図 31 建物モデル(ワイヤーフレーム)
B建物テクスチャの作成についてだが、建物テクスチャは大きく2種類に大別される。概して述べると、1つは高層建築物のテクスチャ、もう1つは低層建築物のテクスチャである。また、テクスチャの作成はすべてAdobe Photoshopで行った。
まず、高層建築物のテクスチャ作成について解説する。まず、建物テクスチャ画像を図32、図33に示す。
図 32 建物テクスチャ画像(その1)
図 33 建物テクスチャ画像(その2)
図32、図33は同一の建築物の写真画像である。ここに見られるように、高層建築物はテクスチャ画像を複数枚から抽出し作成しているものがある。この場合、作成したテクスチャの色調を完全にあわせることは非常に困難である。また、同一の写真画像から抜き出したテクスチャであっても、上部、中部、下部とそれぞれ色調が異なり、その補正は非常に難しい。
さらに、今回、テクスチャのマッピングは小さな部位から作成したテクスチャを並べ、タイル状にマッピングするという手法をとっている。これはデータ量の肥大化を防ぐ為でもあるが、建物テクスチャ画像に建築物の全体像がすべて入っているものが少ないという理由もある。この場合、作成するテクスチャ画像は非常に小さくなってしまい画像がつぶれてしまいマッピングした際に建築物がきれいに表現できない、もしくは、テクスチャの微妙な色彩の変化が、同一テクスチャを複数並べてマッピングする際、独特な模様となり現れ、CGモデルの質を下げてしまうことになる。
そこで、高層建築物のテクスチャに関しては、完全に新たなテクスチャを作るに近い修正を施した。修正したテクスチャを図34に示す。
図 34 建物テクスチャ(その1)
次に、低層建築物のテクスチャ作成に関して解説する。まず、建物テクスチャ画像を図35に示す。
図35 建物テクスチャ画像(その3)
低層建築物は建物テクスチャ画像に建築物の全景、もしくは全景に近い割合が入っているものが多く、テクスチャのマッピングの際、並列してマッピングすることが不可能な不規則なファサードをしているものが多い。また、比較的古い建築物や看板を多数掲げた建築物が多いため、できるだけ広い面積部分を1枚のテクスチャとして抽出した。また、高層建築物のテクスチャのように大きな修正を加えると、モデルが均一になりすぎ、逆に違和感を感じた。よって、できるだけ修正を加えずテクスチャを作成した。テクスチャの修正前と後を図36に示す。
図 36 建物テクスチャ(その2)
図 37 建物モデル
4.3.3. 3次元モデルの構築
本研究では街路樹以外のストリートファニチャは作成していない。これは作業時間、データ容量の節約、基礎データの不足など様々な理由があるのだが、街路樹については、これの有無もしくは完成度に全体のモデルが大きく影響を受けると感じられたため、これを作成した。そして、その他レンダリング環境を整え、ここまで2つに分割し作成してきたモデルを合成、現状モデルを完成させた。以下に作成手順について、図表を交え解説する。
@街路樹は、板ポリゴンを作成、これにテクスチャをマッピングするという作成手法をとった。テクスチャは1種類の街路樹に対し、それぞれ2つの性質を持ったものを用意した。具体的に述べるとRGBで出力したテクスチャとαチャンネルで出力したテクスチャである。そこでこれら2つの性質を保持できるフォーマットであるtif形式でテクスチャを作成した。
図 38 街路樹テクスチャ
左の図がRGBで出力したもので、右図がαチャンネルで出力したものである。αチャンネルはテクスチャマッピングの際、透過処理を施すため用意したものである。
A続いて、板ポリゴンの作成だが、通常街路樹は板ポリゴン1枚で表現される。しかし、これでは影の表現が上手く表現できないため板ポリゴンを十字に組み合わせた。
図 39 板ポリゴン
Bこの十字に組み合わせた板ポリゴンにテクスチャをマッピングした。
図 40 街路樹RGB出力
αチャンネルを使用しない場合、上図のように表現される。よってこれにαチャンネルを適用し透過処理を施す。これを図41に示す。
図 41 街路樹RGBa出力
CCG環境は、照明は全体を照らすものとしてオムニライトを4つ、4方向に配置した。このうち2つがメインの照明効果を果たすもので、残り2つは逆光を演出するものである。さらに、南大門に関してはスポットライトを配置した。
Dその他、空は天空など新たなオブジェクトは作らず、環境マッピングにて表現した。これは、照明などの影響を受けない利点などを持っているのだが、視点が動く場合も常に同一の空が表現されてしまうなどの側面もある。しかし、雲が多くない空をテクスチャとして使用すれば、この問題は比較的解消されるため、本研究ではこの方法を採用した。
E最後に2つのモデルを合成し、現状モデルを完成させた。景観写真画像と完成したCG画像を以下に示す。
図 42 写真画像との比較(その1)
図 43 写真画像との比較(その2)
図 44 写真画像との比較(その3)
写真画像とを比較すると、現状モデルが、ほぼ正確に再現出来ていることがわかる。しかし、いくつかの相違点が見受けられる。これは研究対象地域外に存在する高層建築物が写真画像に写っていること、地形の起伏が現状モデルに含まれていないことなどが挙げられる。以下に様々な角度からの現状モデルのCG画像を挙げる。
図 45 現状モデル(その1)
図 46 現状モデル(その2)
図 47 現状モデル(その3)
図 48 現状モデル(その4)
図 49 現状モデル(その5)