厳島神社のシーケンス景観に関する研究

 


 

本研究は、厳島神社のシーケンス景観において、厳島神社の空間性及び良好景観としての指標を、景観構成要素(物理量分析)とその空間から起こされる様々な心理的な状況(心理量分析)とを明確に対照させることにより、両者の相関関係(相関関係)を明らかにすることを目的とします。

研究の方法は、最初に、視点場を選定します。次に、選定された視点場からスライド写真を撮影し、物理量分析、心理量分析と相関分析の3段階の分析をおこないます。

 

1.物理量分析

a視覚的物理量

スライド写真から読み込んだ各画像データに抽出された32の空間構成要素の面積割合をまとめ、グラフ化しました。その結果、ほぼ全ての視点場において空・緑・海(水)の割合が多く、自然性空間構成要素の比重がとても大きいです。

b.物理量シークエンス分析。

自然性空間構成要素として、空、緑、海(水)の視覚的物理量は、起点から終点において回廊内の視点場Jを除き非常に多く、とても自然性にあふれています。

に示すように、厳島神社・鳥居は起点にて見られるが、視点場Eより鳥居が再び見られ、厳島神社は視点場Gより再び見られるという心理的高揚を招くという神社空間の空間性、及び、空間的演出が見られます。

 

2.心理量分析

SD法より、厳島神社シーケンス景観の心理構造を明らかにするため、17の形容詞対、7段階の評価尺度を決めました。これらの評価尺度を用いて、被験者は男女43名、17枚のスライド写真を1枚ずつ提示し、アンケートの結果を求めました。

(1)心理量シークエンス分析(その1)

「豪華な一質素な」「洗練された−素朴な」の形容詞対が同じ変化がみられました。

「統一感のある−ばらばらな」「快い一不快な」「美しい一醜い」「好き−嫌い」の形容詞対が同じ変化がみられました。

また、「期待感のある一期待感のない」「威厳のある一親しみのある」「特徴のある一特徴のない」を含めた形容詞対による心理変化は、いずれも、鳥居が見られる視点場Eより心理的に良い評価が得られています。

「開放的な一閉鎖的な」の形容詞対は、視点場Jの回廊内を除いてほぼ開放的であるという心理評価が得られます。

「情緒のある一情緒のない」の形容詞対では視点場Aのフェリー乗り場を除いてほぼ情緒のあるという心理評価が得られました。

「くつろいだ一緊張した」の形容詞対では、厳島神社社殿の影響がみられました。

(2)因子分析

因子分析により、固有値1.0以上・累積寄与率80%以上の基準等を考慮した結果、第2因子まで抽出されました。第1因子は、「荘厳性」を解釈され、第2因子は、「心地よさ」を解釈されます。

(3)心理量シークエンス分析(その2)

第1因子では、鳥居が見られる視点場Eより「荘厳である」の方へ変化をしています。心地よさを表す第2因子では、比較的、鳥居が見られる視点場では「心地よい」という結果が見られます。

(4)視点場の類型化 

 に示すように、因子分析により得られた各視点場の因子得点をプロットした図を用いて、視点場を6つに分類しました。

類型T(鳥居眺望遠景型)。

類型U(鳥居眺望社殿景観型

類型V(社殿中景型

類型W(単構成要素型

類型X(眺望遠景型

類型Y(奥行き景観型

 

3.相関分析

(1)単相関分析 宗教建築物の視覚的物理量が増すと「豪華な」「統一感のある」「期待感のある」「洗練された」「閉鎖的な」「緊張した」「直線的な」「立体的な」「連続的な」感じがするという関係があります。

一般建築物の視覚的物理量が増すと「質素な」「ばらばらな」「期待感のない」「素朴な」「親しみのある」「醜い」感じがするという関係にあります。

緑・防波堤の視覚的物理量が増すと「自然な」感じがするという関係にあります。

(2)重回帰分析 図に示すように、厳島神社の空間構成要素と心理指標の関係が明らかになりました。

 

4.考察

厳島神社は、自然性空間構成要素が多く、神社・鳥居が心理的に影響しやすいです。

厳島神社のシーケンス景観は相反する荘厳性と心地よさが共存していって、宗教建築物と一般建築物が相反する位置づけにあって、美しい指標として海(水)が得られました。


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