ゆらぎを用いた蘇州市水路空間構成の分析

―水郷都市水辺空間に関する研究(その2)―

 


 

 

1.研究の内容と目的

本研究は、中国江南水郷都市蘇州の水路空間を分析対象とし、水路空間の構成要素を客観的なデータとして扱い、フーリエ変換を用いた解析により水路空間特性を定量的且つ客観的に把握することを目的にしています。特に、今後水路空間を再整備する際に、現状の水路空間構成要素をいかに調整すれば、最も自然らしく心地よくなるのかを解決するために、本稿はゆらぎ特性と逆フーリエ解析を用いた景観調整法を提案します。

 
-1は本研究のフローを示しています。

 


2.水路空間構成の分析

水路空間の構成は、図-2のように「水路空間形状の変化」(幅の変化)、「水路空間軸の転換」(進行方向の変化)と「空間限定の変化」(建物と橋分布の変化)という3つの部分に分けられます。

本研究は蘇州市歴史保護区にある平江河を研究対象にしています。

 

3.水路空間構成要素ゆらぎ特性の解析

3.1 構成要素波形図とそのフーリエ解析

平江河の平面図からデータを採取し、平江河の幅、流れ方向の変化と建物、橋分布の現状波形図を図-3のように作成します。それらのデータをフーリエ変換して、各構成要素のパワー・スペクトルを求め(縦軸はパワー・スペクトルで、横軸は空間周波数で、両軸とも対数目盛をとる)、図-4のような解析結果が得られました。

 フーリエ解析の結果から、平江河各構成要素ゆらぎの値は次の通りです。幅の変化は-0.98、進行方向の変化は-0.89、両側建物の分布は-0.82、橋の分布は-0.66となっています。その中で、幅と進行方向の変化および建物分布のゆらぎ値は-0.82-0.98で、1/fゆらぎに近づいているため、現場で人間が心地よく感じるわけです。しかし、橋分布のゆらぎ値は-0.66で相関性が低く、即ち、平江河における橋の分布は実際に心地よくないといえます。

 
 

3.2 データ調整法と再調整波形図

上で分析したように平江河橋の分布が心地よくないことが分かりました。次は、どのような分布であったら良いのかをここで考えます。

フーリエ変換の解析結果を分析すると、橋分布のデータを帯域通過フィルターにより処理すれば、1/fのゆらぎ特性をもたせる可能性があります。帯域通過フィルターの空間周波数を次のようにそれぞれ設定し処理をしてみました。

処理1:帯域を1/2.41/22.8に設定。

処理2:帯域を1/2.11/12.1に設定。

  具体的な方法は、空間周波数1/2.41/22.8(処理1)と1/2.11/12.1(処理2)以外のフーリエ変換したデータを0にします。そしてそれぞれを逆フーリエ変換します。-6は処理1と処理2による理想的な橋分布のパワー・スペクトルです。-7は再調整した(処理した結果)平江河の橋分布の波形図を示しています。


 処理した結果を分析すると、処理1では、幅が最も広い保吉利橋(15.4m)を除いて、次に広い勝利橋(7.2m)と衆安橋(6.0m)をそれぞれ2つの橋に分けました。他の橋にサイズの変化がありません。処理2の場合、保吉利橋と衆安橋が全部取り除かれ、他の橋の幅が狭くなりました。

 


4 まとめ

 現状:平江河水路空間の構成要素は、川の幅、進行方向という水路空間サイズの構成要素と建物分布という空間限定構成要素のゆらぎ値が−1に近づき、変化と分布の現状が心地よい状態です。橋分布のゆらぎ値が0に近づき、分布の現状はよくないともいえます。

 処理:現状が良くない構成要素に対する調整方法は単純な一つではなく、多方面の処理から着手できます。例えば、幅広い橋を幅細く調整するか、または2つの幅細い橋に変えるか、というようなことができます。平江河の現状では、幅が最も広い保吉利橋は不調和な構成要素になっていると判断でき、再建または改造すればよりよい景観になることは間違いありません。

 

 


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