州における水辺空間の構成

−水郷都市の水路街路空間に関する研究(その1)−

 


1.はじめに(背景と目的)

 中国江南の水郷都市蘇州は、運河があちこち到る所に存在する。都市は縦横にのびている運河によって構成されており、都市の景観も運河の存在によって豊富な景観が形成され、独特的な魅力を持っている。しかしながら、近年都市の再開発或いは新規建築物の建設によって、水郷景観の特徴“小橋、流水、人家”の中で最も重要な要素としての水路(運河)が次第に消滅し、水郷の特徴が失われようとしている。また、新しく建設、整備された水路は自然性に欠けていて、現存の水路に及ばないという印象がある。したがって、水郷歴史の美しい景観の維持、また現代の快適な生活環境を創造するために、水郷景観の構成原理を把握し、水郷景観の構成要素と構成方法などについて分析する必要がある。本研究は、水郷景観の保存、修景や再開発等に寄与するため、景観形成における知見を得ることを目的としている。

 

2.研究方法と手順

 水路は、水郷の中で最も影響の高い空間の一つであり、水路の構成はその水郷の景観を決定しうる重要な要素である。しかし、水路の評価手法に関する研究は少なく、ほとんど定性的で人間の体験により評価している。本研究は、景観を客観的なデータとして扱い、そのデータをコンピュータを用いて分析し、景観の物理的特性を定量的に解明するという方法で行う。研究方法として、蘇州市都市計画局等でヒヤリング調査、現地調査を行い、収集した文献資料に基づき、次の手順で研究を進める。@水路空間と街路空間の関係パターンを分類し類型化する。A水辺空間構成要素を分析する。Bフーリエ変換を用いたゆらぎ理論によって水辺空間の韻律を定量的に分析する。C水辺空間の多視点と豊富的な景観との関係について解析する。D水郷都市における水辺空間の特徴を把握し、水郷景観の保存、修景に理論的な指導方法を提案する。

  本論文は、未だ研究の初期段階であり、研究シリーズの第一段であるため、上述の@とAに対して研究した結果である。

 

3.水路空間と街路空間との関係パターン

  パターン1:一河無街 水路の両側に建物が立ち並べ、図1−1に示しているように「街路−建物−水路−建物−街路」という空間構成となる。特徴:各空間は独立の状態で、互いに影響がない(図1)。

 パターン2:一河一街 水路の片側のみ建物があり、図1−2のように「街路−建物−水路−街路−建物」という構成となる。特徴:一側に水路空間と街路空間が一つの連続空間となる。

 パターン3:一河二街 水路の両側に建物がなくて、図1−3のように「建物−街路−水路−街路−建物」となる。特徴:街路空間と水路空間の関係があるのみならず、街路と街路空間の関係にも及ばれる。

 


4.蘇州の水路と都市

 蘇州古城は、紀元前541年に建てられ、現在までに2500年余りの歴史をもち、中国では最も古い都市の一つである。宋の時代の「平江図」(図2−1)を見ると、城内に水路が密集し、都市の骨格は、“横三条、縦三条”という南北と東西方向にそれぞれ3つの重要な水路からなる。街路は水路と平行または垂直になるのは普通である。蘇州市水路の役割は、@交通と運送、A生活と消防用水、B水害の防止の三つである。現代になって、高速で便利な自動車が主要な交通道具となり、また水路の水質の悪化にともなって、水路の利用率が大幅に減り、水路の重要さもだんだん失われた。宋の時代では、蘇州古城水路の総長さは85キロで、現在約35キロしか残っていない。消失した水路は埋め立てられ、その上で道路や建物が作られている。でも、蘇州市は二千年余りの歳月遷移を経て、不思議なことは現在の水路分布は北宋時代のとあまり変わりなく(図2)、各歴史時期に作られた水路の一部分はあちこちに見える。上述したように、蘇州の水路は昔のまま残っているから、新しい水路を古い水路と比較することができ、本研究に対してとても有利になる。


 


5.研究対象の選定

 現地調査により、前に述べた水路空間と街路空間との関係パターンを考慮して、蘇州古城の平江河、盛家帯河(平江河南段)、道前河、十全河、干将河を研究対象として選び、それぞれの水路の特徴は次の通りである(図3と図4)。


 1.平江河は南北方向の水路で、都市骨格となる“三縦三横”の“三縦”の中で最東端の河であり、蘇州市の歴史保護区「平江保存区」にある。保護区は住宅用地で、住宅は伝統的な四合院で、斜面屋根、1階または2階建てが多く、昔の蘇州都市の風格はここで見える。水路と街路空間の関係はパターン2とパターン3であるが、パターン3は多めに占める。

2.盛家帯河は昔、平江河につながっていて、平江河の南側にある。空間構成は平江河とほぼ同様である。異なる所は、河の西側に3階または4階建ての斜面屋根の新しい集合住宅が建てられている。道路の幅も平江河のより広く、空間の尺度が違う。

 3.道前河は東西方向で、“三横”の中で真ん中の河である。河の南側は伝統的な住宅であり、北側は幅12メートルの都市道路である。都市道路と河の間に、緑地と歩道が新たに建設されて、パターン2に属する。

 4.十全河は東西方向で、“三横”の中で最南端の河であり、パターン1になる。河の南側に新しく作られた商店街は、ほとんど2、3階の建物である。河の北側に新築の建物と古い建物が両方あり、新と旧がはっきりしたコントラストをなしている。

 5.干将河は東西方向で、“三横”の中で最北端の河である。干将河は最近に作った人工河である。両側は、幅12メートの都市主幹線道路であり、建物などは無く、現代都市の新水路である。街路水路空間パターン3である。

 

6.水路街路空間構成要素の分析

.1水路街路空間要素の構成

 平面地図によって、水路街路空間構成要素を建物、橋、水埠、空地、支流に分ける。その中で建物、橋、水埠が最も重要な構成要素であり、水郷景観“小橋、流水、人家”という特徴をもたらしている。

 1.建築:建物は水路空間や街路空間などを限定する役割を果たす構成要素である。連続な建物が水路街路の両側に並べていて、水路街路の空間が形成される。

 2.橋:橋は水郷の街路と街路を結ぶ構成要素である。蘇州の橋は数が多く、様々な形をしている(表−1と表−2

 
3.水埠:水埠は、公用水埠と私用水埠に分けられている。自家用の私用水埠は、住宅の後ろにすべて設置している。公用水埠は周りに建物がなく、水辺に小さな広場ような空地となる。図5と表−3に示すように、公用水埠の場合は、B2のような形式が多く、私用水埠はA2のような形式が多いと言うことが明らかになる。

 

4.空地:空地は建物が無い、空隙、橋頭、道路など空間からなる所である。

5.支流:支流とは、ほかの川から流れ込む水路のことである。

 4は、研究対象の水路街路空間構成要素の構成を示した。


 

.2水路街路空間の韻律と空間構成要素

 蘇州の現地調査で、水路や街路を通るとき、建物、空地、橋など異なる空間が、一定の距離で重複に現れ、「一明一暗」(明るいと暗い)、「一開一合」(開放感と閉じ込まれる感)という強烈なリズムを人間に与えてくれたため、水路と街路の韻律は空間構成要素の間隔、及び要素自身の寸法との関係があるのではないと思い、構成要素の寸法と要素の間隔などの関係について分析することを試みた。次のように空間構成要素の分布状況図と全要素の密度図を作成し、分布状況に対して分析している。

 

.3空間構成要素の分布状況図

 図6は、道前河南側における空間構成要素分布図である。その中で、橋の図に示しように黒い部分は橋を示しており、白い部分は、橋でない部分を表している。同様に、以はそれぞれ水埠、空地建物の分布図である。

 上述した各構成要素の分布図を重れて合わせると、図7のような全構成要素の変化密度図が得られる。図において、縦線は要素と要素の境界線で、つまり、要素と要素の変わり目となっていることを表している。したがって、縦線があるところは、要素が変化している所を意味している。縦線と縦線の間隔は、要素の長さを示している。

この分布図と密度図は、研究空間の構成要素のデータとしてを用いられる。図7に示したように要素変化の密度は、空間距離により波形のように変化している。このような韻律のある変化は、人間に水路景観を心地よく感じさせる役割があると考えられ、研究空間の構成の重要な特徴である。本稿で得たデータをフーリエ変換して分析しゆらぎ理論により、研究空間の構成を定量的に明らかに解明するのは、今後の研究内容となる。

同様な方法で、平江河、十全河、盛家帯河、干將河の構成要素の分布図を作成した。

 


7.今後の課題

 本研究では、蘇州市水路街路空間分析に関する研究の一部分であり、今回は水路街路空間の現状の把握にとどまっている。今後、それぞれの河に対して、同様な分析方法を用いて、これから分析結果を客観的な空間構成要素分布密度データのみを用いて、ゆらぎ理論によって水辺空間の韻律を定量的に解析する予定である。蘇州水路の共通な特徴を理論上で明らかにし、水路の保護と再修復に役立つことを期待している。

 


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