CHAP4.html
- 4.2 開管内の音場
4.2.1 一方の端が剛、他方が開放されている管

図のように、x=0の壁が剛、x=lxの壁が開放されている管の場合の音場を考えてみよう。
波動方程式とその解は前述の通り以下である。


あるいは、

x = 0 で v = 0 となる点も閉管の時と同様で、従ってB=0 である。
あるいは、B=0からC1=C2であることを考慮して、

となる。従って管内の粒子速度分布は次式で与えられる。

同様に音圧分布は以下である。

これらの式を見れば、粒子速度も音圧も、剛壁から反射される(前進)波と剛壁へ向う(後退)波が干渉し、その結果、
粒子速度:sin kx
音圧 :cos kx
で表される分布形状を示す、即ち定在波を生じる、ことが分かる。
ここで留意すべきことは、任意の周波数 f に対して定在波が生じること、及び、その波長λ(=c/f)の1/4毎に振幅の山谷を交互に生じることである。また、ここで想定した剛壁ではλ/4、3λ/4、5λ/4、、(2 m - 1)λ/4 の位置に音圧が0となる点を生じる。一般の壁の場合は吸音の影響で、反射波の振幅Bが入射波の振幅Aより小さくなり、音圧が0とはならない。この性質を利用すると、材料の吸音率が求められる(管内法吸音率の項を参照)。

4.2.2 開口端に関する疑問と議論
さてここまでの議論では、もう一方の端(x=lx)における条件が考慮されていなかった。この点について議論しよう。
ここで用いている波動方程式は「一次元」に関するものであり、それを満たす音波は三次元空間では「平面波」となる。「管」は、現実の世界で「平面波」を実現するためによく用いられ、また、以上での説明をイメージすることを助けるためにも便利であった。しかし、(無限大の)剛壁へ平面波が垂直に入射、反射するという仮定が成立するならば、これまでの議論に 音の進行方向の側壁、即ち「管」、は全く必要とされていないことに気付くべきである。

ところで、開口端は「境界条件」として物理的にどうモデル化できるのだろう?
(1)管の内外に空気が連続しているモデル
このモデルでは現実的観点から眺めれば、管の内部から見ると反射波が全く返ってこないのだから管の開口端を「完全吸音性の壁」とみなすこともできる。数式的には、管内外の空気の特性インピーダンスZ1, Z2がともに平面波に関する値、ρc、とみなせ、境界における音圧反射係数 rp は、
(3.2参照)
即ち、「完全吸音」としてモデル化できる。4.2.1で見てきたとおりこのモデルでは、管の内外で連続的な平面波が成立する理想的な場合、開管の開放端の位置は内部の音場に関係しないことが結論される。この場合の解が4.2.1に記した式である。但し、現実の管では、開放端における管の内外への音波の出入りがあり、摩擦他の影響で現象はもう少し複雑となる(次節及び管端補正の項を参照)。
(2)管の開口端で媒質(あるいはそのインピーダンス)が突然変化するモデル
現実の管では、開口端から発された音は空間へ広がっていく。従って管外部の媒質の特性インピーダンスZ2はρcではなく複素数となり、音圧反射係数も複素数となるのが通常である。即ち、特性インピーダンスの異なる媒質が接している境界では複雑な音の反射が生じる。
なお音圧反射係数が「複素数」であることは、我々の住む実数(または虚数)世界の現象が、我々の預かり知らぬ虚数(または実数)世界の現象と作用して、我々に音波の「位相差」として観測される、という結果をもたらす。
[例題] (異なる媒質が接している境界面へ平面波が入射する場合)
空気と水が接している境界の音圧反射係数rp、反射率r、吸音率αを求めよ。但し、空気、水の特性インピーダンスはそれぞれ415、1460000[kg/m2 sec]である。なお
a. 空気から水へ 、並びに、
b. 水から空気へ 、
という二つの方向について求めて比較すること。

(解)
a. 空気から水へ入射する場合:


ここで、音圧反射係数が1ということは、
(反射波)=1×(入射波)
を意味し、境界においてそれらの合成波の音圧は常に入射音波の2倍となる。一方、入射波、反射波、透過波の粒子速度をそれぞれvi、vr 、vt とすると、 連続の式、

が成立しなければならない。従って、

境界ではpiとpr が等しいため左辺=0だから、結局、ここでの粒子速度も0となる。これは前述の「剛壁」の条件の再確認に他ならない。
b. 水から空気へ入射する場合:



音圧反射係数が-1ということは、
(反射波)=-1×(入射波)
を意味し、境界においてそれらの合成波の音圧は、入射波と反射波の正負が打ち消し合い、常に0(ゼロ)となる。また粒子速度が境界上で極大となることは連続の式から容易に推測できる。このような境界を剛壁に対して「軟壁」と呼ぶことがある。
([例題]終わり)
この「軟壁」を境界とする音場を閉管の場合と同様の過程で求めておこう。但し、閉管との比較のため、ここでは仮想的な片側のみの開管を想定し、x=0が剛壁、x=lxが軟壁としておく。
波動方程式とその解は前述の通り以下である。


あるいは、

x = 0 で v = 0 となる点も閉管の時と同様で、従ってB=0 である。
あるいは、B=0からC1=C2であることを考慮して、

となる。さらに、x=lxにおいてp=0だから、音場が安定的に存在するには

が常に(t によらず)成立しなければならない。これを満たす波長定数は次のような「とびとびの」値となる。

即ち、角周波数ωm、周波数fmは、それぞれ

を満足する時、この状態が安定的に存在できることになる。
この場合の管内の粒子速度分布は次式で与えられる。

同様に音圧分布は以下である。

これらも図に示す通り固有モードとなっている。但し、閉管の場合と固有周波数の値も振動姿態(mode shape)も異なっている。
以上のように特性インピーダンスが大きく異なる面へ入射する音は、エネルギー的にほぼ完全に反射される。また低インピーダンスから高インピーダンスの媒質へ入射する場合と、その逆の場合で、現象がエネルギの反射率や吸音率という見方では全く一致するものの、音圧や粒子速度の挙動では正反対となる点は興味深いことである。
(3)より現実的なモデル
皆さんの近くにある端が開いたパイプなどを手にしてみよう。媒質は通常、管の内外ともに空気だろう。従ってそれは(2)のモデルではないが、理想的な条件が必要な(1)という訳でもなさそうだ。
より現実に近い説明を行うために、断面積S1とS2の二つの管が結合しているモデルを想定しよう。このモデルは空調機のダクトの騒音伝搬の解析などで用いられるものである。これらの管内の平面波の伝搬を考えるには、それぞれの管を通じての体積速度の連続を考慮する必要があり、音響インピーダンスとして断面積を考慮した Za = p/Sv (体積インピーダンス、とも呼ばれる)を用いる。

開管は、その開口端において、上記のモデルの極限である断面積無限大の自由空間と結合しているものとみなすのが、より現実的であろう。即ち、外部の体積インピーダンスは 0(ゼロ)とみなせばよい。またZa = 0 面の音圧p はv によらず常に 0となり、これを開口端の境界条件とするのが一般的である。つまり軟壁とみなされている。なおここでも平面波が前提とされている点に注意すること。
一般に閉管や有孔板の固有周波数や固有モードを求めるには、開口端の境界条件として軟壁の条件であるp=0を採用し、さらに摩擦などによる誤差として管端補正(end correction)δをlxに加えて(2)の各式が用いられている。なおδの値は、直径dの円管の場合、δ=0.8 d とすればよいとされている。