1997年度卒業研究
地形と土地利用データを用いた
景観構成条件による地区類型に関する研究

●研究の概要

 

1.研究の目的と背景

  近年の我が国の都市景観行政において、「景観基本計画」が制定される事例が数多く見られる。これら景観基本計画では、都市計画一般の例に漏れず、調査・計画の基本単位となる「地区単位」が設定されることが多い。しかるに、景観の捉え方は多分に主観的に行われるものであり、「地区単位」を客観的に設定することは容易でない。 
 また、土地被覆の状況を示す「土地利用」と土地の見え方を支配する「地形」は景観を規定する重要な要素であるが、既往の研究では限られた視点場の個別の景観について特性を論じることが中心で、都市全体にわたって大局的に景観特性を論じるものは少ない。 
 本研究の目的は典型的な地方中核都市である大分市を取り上げて、一般的な都市計画資料である土地利用と地形についての情報をベースに、客観的手法により地区単位を設定し、都市全体にわたって景観特性を把握することである。 

2.研究の方法と構成

 本研究ではマクロ景観把握のベースデータとして、大分市の標高および土地利用に関するメッシュデータを利用する。これらのメッシュデータは大分大学都市計画学研究室の既往の調査・研究によって作成されたもので、メッシュサイズは緯度経度法に基づく250mメッシュである。なお、大分市の市域全体は5,645メッシュから構成される。 
 図1に本研究の全体フローを示す。まず、地形面と土地利用面の条件を整理することによって視対象としての地区類型である「景観ゾーン」を得た。次に「景観ゾーン」に対する可視率について多変量解析手法を適用することによって「視点場クラスタ」を得た。さらに「景観ゾーン」および「視点場クラスタ」の関係を3つの視覚指標値を通して観察することにより地域景観特性を把握した。また、CGを用いて典型的な視点場からの景観ゾーンの見え方をシミュレートした。 
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<図 1 研究のフロー>

 

3.景観ゾーン分析〜視対象としての地区類型

 まず前記のメッシュデータを用いて標高と土地利用について一定の条件を与えたうえで、メッシュ毎に図2のインデックスに示す9つの景観ゾーン区分への適合を判定した。景観ゾーン区分の分布を図2に示す。つづいて、これに対してスムージング処理を施し、景観ゾーン区分の分布を連続したまとまりに再構成した。これによって形成された連続するまとまりのひとつひとつは、視対象としての共通の特性を有する地区であり、これを「景観ゾーン」と呼ぶ。この結果この地域の景観を面的に構成している49の景観ゾーンを得た(図3)。 
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<図 2 景観ゾーン分析〜1次判定結果>
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<図 3 景観ゾーン分布>
 

4.視点場分析〜視点場としての地区類型

 各メッシュから全てのメッシュへの可視/不可視判定を行い、「景観ゾーン」に対する可視率を求めた。この「景観ゾーン」への可視率に対して因子分析を適用し、9つの因子を抽出した。これらの因子は視点場メッシュからの可視率について類似した傾向を示す景観ゾーンの集合(ゾーングループ)に相当する。さらに、これら因子についての因子得点に対してクラスタ分析を行い10のクラスタを得た(図4)。これらクラスタは景観ゾーンに対する可視率について比較的類似した傾向を示す視点場の集合であり、これを「視点場クラスタ」と呼ぶ。 
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<図 4 視点場クラスタ分布>
 

5.景観特性分析

 これまで得られた視対象としての地区類型(景観ゾーン)と視点場としての地区類型(視点場クラスタ)の相互関係を、以下のような3つの視覚指標を通して観察することで大分市の景観特性を把握した。 
 ・可視領域の平均面積 
 ・可視領域までの平均距離 
 ・可視領域への平均視線入射角 
 これら3指標はいずれも視対象の見えやすさを支配する指標であり、これらを評価することにより視点場クラスタからの景観に対する景観ゾーンの影響力の強さを推定することができる。視点場クラスタから景観ゾーンに対する視覚指標を図示したものの例を図5に示す。 
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<図 5 視覚指標マップ(視点場クラスタ8)>
 

 この結果、視点場クラスタからの景観について2つの観点から、その特性を導き出すことができた。1つ目は市域に対する眺望の広がりの程度による特性であり、市域の広い範囲に眺望を得られる3クラスタ、特定の限られた地域に対して眺望を得られる6クラスタ、さらに視点場メッシュの極めて狭い範囲しか眺望できない1クラスタが認識された。2つ目は景観に対して影響力の強い景観ゾーンにおける市街地/非市街地の比率であり、市街地中心の景観が展開する2クラスタ、非市街地中心の景観が展開する4クラスタ、その中間の4クラスタが認識された。さらに、景観上特に重要なゾーンとして、大分平野の後背に位置する2つの主要な山塊が、全ての視点場クラスタに対して強い影響を与えていることが明らかになり、これら山塊の存在が大分市の景観を全体として特徴付ける重要な要素となっていることが確認された。 
 また、CG画像によって典型的な視点場からの景観ゾーンの見え方をシミュレートし、前述の視覚指標による分析を確認した。CG画像の例を図6に示す。 

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<図 6 CG画像による景観ゾーンの見え方(視点場クラスタ8)>
 

6.まとめ

 これまで、都市計画資料として一般的なものである土地利用と地形情報をベースにしながら、景観を規定する条件を整理し「景観ゾーン」と「視点場クラスタ」という2つの地区類型を得た。さらに、これらの関係を3つの視覚指標を通して観察することで、景観の特性を分析することができた。また、一連の分析は数値情報を解析的に取り扱うことにより成されていて、分析のベースである土地利用・地形と分析の結果である景観特性には明白な因果関係が存在する。このことにより、地域景観の大局的特性を、きわめて一般的な都市計画資料を用いた上で客観的に導き出すことができたといえる。 
 
 

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