1. 研究の背景と目的


1.1 研究の背景と意義

都市景観は、その良し悪しが、都市活動もしくはそこに住む人間の生活の良好さを表象するのではないだろうか。しかし、現在までの都市の多くは、人口の増加や産業の促進が優先されてきた結果、景観の整備は優先課題とされてこなかった経緯がうかがえる。だが、所得水準の向上や余暇時間の増大に伴い、「ゆとり」「潤い」など、生活の質的向上や心の豊かさに対する社会的要求が増し、産業中心から市民生活中心への政策転換が求められている。すなわち、都市の景観形成は近年ますます重要な課題としてとらえられ、景観整備という課題は、多くの都市で必然となってきていると考えられる。しかし、従来までの都市の景観形成に関する研究は、そのほとんどが、欧米において開発された技術や理論を適応してきたものであり、それらが我々の住むアジアという風土に適したものであるとは言い難い。なぜなら、アジアの諸都市は欧米の諸都市と比較し、高密度な空間利用がされているとされ、韓国の都市においては一般的に、日本の3倍ともいわれる高密な空間利用がされていると言われているからである。このことからも、従来の景観整備とは別の、つまり、アジアに適した景観とは何か、アジアの都市において望ましいとされる景観はどのようなものなのかということを求め、アジア独自の景観形成の方向性を見つけていかなくてはてはならない。

都市空間の密度とそこに現象する景観には、深い関係があると考えられ、高密度な都市空間は、人工的景観と自然景観の調和、もしくは人が居住するうえでの環境的な問題などに関して、様々な負の要因として作用し、望ましくない影響を与えていると考えられる。こうした中で、高密度であるがゆえに引き起こされている景観阻害とその要因は何なのかを探らなくてはならない。その都市の法制度や地勢、その他様々な角度から分析し、高密度な都市空間の実態とそこに現象する景観の形態の特徴を把握し、高密なアジアの都市空間における景観整備の方向性を模索し、良好な景観を形成していかなければならない。

1.2 研究の目的と構成

1.2.1 研究の目的

本研究は良好な景観への誘導が目的であるが、これを目的とするうえで、韓国・ソウル市の高密度住居地域(高層アパート団地)における景観について、その物理的状況を把握するとともに、これに対する評価の構造を明らかにすることを目的とする。なお、具体的に以下に示す。

ソウル市における典型的市街地の3次元的構成をデータ化し、高密度な市街地の現状を立体的にとらえ、さらに、コンピュータ・グラフィックスによる表現を行う。

代替画像との比較評価により高密度な市街地景観の評価をよりダイナミックに行う。

現状のアパート群に必要とされている密度を維持して、より良い景観のコントロール手法を模索する。

評価データと物理指標との関連性を求めて、高密度な市街地景観の評価を行う。

1.2.2 研究の構成

本論文は以下のように構成される。

「序章」は本章であり、本研究の背景、意義、目的、構成および方法について概説する。

「第2章」では、本研究の対象地域として取り上げたソウル市について、その概要を述べる。

「第3章」では、現状の高層集合住宅群について3次元的構成をデータ化し、さらにコンピュータ・グラフィックス画像を作成する。

「第4章」では、景観のコントロール手法を提案し、さらにコンピュータ・グラフィックス画像を作成する。

「第5章」では、評価実験の方法と、その分析、分析結果についての報告をおこなう。

「第6章」では、評価データと物理指標の関係について分析をおこない、その結果の報告をおこなう。

「第7章」では、本研究全体の総括をおこなう。

本研究全体をフロー図であらわしたものを以下に示す。

 


村山部屋

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