2章 買物歩行者の使用するヒューリスティックとその判定方法

H.J.P.Timmermans1)は、2つ以上の目的地を持つ歩行者が行動全体を組み立てるにあたって、何らかのヒューリスティック(heuristic:行動のための発見的戦略)を用いていることを明らかにし、それらのヒューリスティックを時間的ヒューリスティック(temporal heuristic)と空間的ヒューリスティック(spatial heuristic)に分類している。

21 時間的ヒューリスティック

買物歩行者が訪問する目的地点が商店街内に複数個ある場合、買物歩行者は全ての2地点間の距離が最小になるように経路を選択する。つまり、訪問順位とは無関係に2地点間の移動に要する時間を最小にするヒューリスティックを用いる。これを局所距離最小化ヒューリスティック(Local Distance Minimizing heuristic、以下LDMと略称)と呼ぶ。

次に、買物歩行者は全ての2地点間を最小距離で歩行し、かつ全ての2地点間の合計距離が最小になるシークエンス(sequence:訪問順位)で歩行する。つまり、シークエンスに着目することにより、一連の買物行動の移動に要する時間の合計を最小にすることができる。これを合計距離最小化ヒューリスティック(Total Distance Minimizing heuristic、以下TDMと略称)と呼ぶ。

最後に、買物歩行者はTDMと同じシークエンスで歩行していても、経路についてはTDMと異なる場合がある。つまりTDMと同じシークエンスでありながら、一連の買物行動における移動距離がTDMの場合よりも長くなることがある。この場合のヒューリスティックをグローバル距離最小化ヒューリスティック(Global Distance Minimizing heuristic、以下GDMと略称)と呼ぶ。

次に、これら3つのヒューリスティックを、図1のモデルにおいて具体的に説明する。

図上で、Sを出発ノード(node:地点)、NSに最も近い立寄りノード、FSから最も遠い立寄りノード、そしてISからの距離がNFの中間にある立寄りノードとする。今、歩行者がSから出発してNIFに順不同で立寄り再びSに帰着するものとする。(A)および(D)の場合のヒューリスティックは、SNIFSおよびSFINSと移動する全ての2地点間を最短経路で移動しているためLDMとなり、かつ合計距離が最小となるのでTDM、さらにTDMと同じシークエンスであるからGDMでもある。(B)の場合は、シークエンスは(A)と同じであるがFS間が最短経路ではないためヒューリスティックはGDMのみとなる。(C)の場合は全ての2地点間を最短経路で移動しているが、AとBでNI間を重複して移動している、つまり合計距離が最小とならないシークエンスであるからヒューリスティックはLDMのみとなる。

今回の研究においては、LDMの歩行者とはLDMのみ(not TDMnot GDM)を用いた歩行者とし、GDMの歩行者とはGDMのみ(not LDMnot TDM)を用いた歩行者とする。これにより、TDMをヒューリスティックとして使用する歩行者と他のヒューリスティックを使用する歩行者の重複を避け、歩行者の合計が一定となるようにした。

 

22 空間的ヒューリスティック

買物歩行者が最初の目的地点として、商店街の入口地点から空間的に最も近い目的地点を選ぶ場合、そのヒューリスティックを最近目的地志向ヒューリスティック(Nearest Destination Oriented heuristic、以下NDOと略称)、これとは逆に、最も遠い目的地点を最初に選んだ場合、最遠目的地志向ヒューリスティック(Farthest Destination Oriented heuristic、以下FDOと略称)と呼んでいる。最後に、立寄りノード数が3以上で歩行者が、入口地点から最近でもなく最遠でもない目的地点を最初に選んだ場合、つまりNDOでもFDOでもないヒューリスティックを中間目的地志向ヒューリスティック(Intermediate Destination Oriented heuristic、以下IDOと略称)と呼んでいる。

図1の例では、(A)と(B)の場合がNDO、(D)の場合がFDO、そして(C)の場合がIDOとなる。

23 時間・空間的ヒューリスティックの判定手順

FORTRANによるプログラムを用いて、買物歩行者のヒューリスティックを判定する手順2)を図2のフローチャートに示す。

@街路網における2つのノード間の最短経路距離の算定

 街路網のリンクの距離と、街路網ネットワークのデータより街路網ノード間の最短経路距離を算定する。

A起終点および立寄りノードの類型化

 買物歩行者の立寄りノードのシークエンスの実測データについて、起点をs:startに、終点をg:goalに類型化する。さらに@で求めたノード間の最短経路距離を用いて、全ての立寄りノードの起点sからの最短経路の距離を算定し、立寄りノードをn:nearesth1second nearesth2third nearest、…、f:farthestに類型化する。

BTDMシークエンスの抽出とTDM距離の算定

 買物歩行者の立寄りノードにおける可能な全てのシークエンスについて歩行経路の距離を算定する。さらにその合計が最小になる場合のシークエンス(TDMシークエンス)を抽出し、そのシークエンスの合計距離(TDM距離)を算定する。

C時間的ヒューリスティック(LDM)の判定

買物歩行者の立寄りノード間の歩行距離の実績値と、@で求めた街路網ノード間の最短経路距離とを比較して、その買物歩行者のヒューリスティックがLDMnot LDMであるかを判定する。

D時間的ヒューリスティック(TDM)の判定

 買物歩行者が実際に歩行した合計距離と、Bで求めたTDM距離とを比較して、その買物歩行者のヒューリスティックがTDMnot TDMかを判定する。

E時間的ヒューリスティック(GDM)の判定

 買物歩行者が実際に歩行したシークエンス(実測データ)および歩行距離の実績値と、Bで求めたTDMシークエンスおよびTDM距離とを比較して、その買物歩行者のヒューリスティックがGDMnot GDMかを判定する。

F空間的ヒューリスティック(NDO、IDO、FDO)の判定

 買物歩行者の立寄りノードのシークエンスの実測データおよび歩行経路における起終点と立寄りノードを類型化してNDOIDOFDOを判定する。

 

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