3章 歩行者の買物行動調査の集計結果と考察

この章では、本研究で用いる八代市本町商店街とフェルトホーヘン市中心商店街で収集された買物行動調査データについての説明と、そのデータの単純集計およびクロス集計の結果について示し考察を行う。

 

31 八代市本町商店街における歩行者の買物行動調査

八代市本町商店街は、その周囲に人口約10万人の住宅地区を持つ八代市の中心商店街である(図3参照)。この商店街において、1999117日に八代高専の都市計画研究グループが、八代商工会議所の協力のもとで買物行動調査を行った。調査方法は経費的な制約や効率性を考慮して、調査員が買物客に店頭で趣旨を説明した後に、質問票及び歩行経路を描き込む地図を配布し、後日郵送してもらう郵送回収方式とした。配布総数は350で、回収総数は167であり、回収率は47.7%であった。質問票では、買物歩行者の性別、年齢、住所(小学校区)、商店街までの交通機関、商店街での買物頻度、買物の計画性を質問している。歩行経路を描き込む地図には商店街への入口地点、立寄り地点と歩行経路、商店街からの出口地点を描き込むことになっている。

32 フェルトホーヘン市中心商店街における歩行者の買物行動調査

フェルトホーヘン市の中心商店街は、その周囲に人口約4万人の住宅地区を持つ計画的に建設されたオランダの典型的な近隣商店街である。(図4参照)。この商店街において199311月にアイントホーヘン工科大学のH.J.P.Timmermans教授のグループが買物行動調査を行った。八代市と同様に質問票と地図によって調査が行われた。ここでは調査員が直接、買物の終わった歩行者から聞き取り調査を行ってデータを収集している。データ数は895である。データの内容は買物歩行者の性別、年齢、商店街までの交通手段、駐車場の利用形態と場所、買物品種、買物費用、買物頻度、買物歩行者の歩行経路である。

33 単純集計結果

3132で示したアンケートの質問項目のうち、八代市とフェルトホーヘン市に共通する次の項目についての単純集計を行った。項目は年齢、性別、商店街までの交通手段、商店街での買物頻度、歩行者の計画性についてである(図59参照)。

34 単純集計結果の考察

33で得られた歩行者の買物行動調査データの単純集計結果について考察する。まず図5の年齢についての単純集計結果を見ると、八代市では40才代、フェルトホーヘン市では3645才にあたる歩行者の割合が高かった。また、八代市では60才代以降の歩行者の割合がフェルトホーヘン市よりも高く、全体の約1/4を占めていた。

次に図6の性別についての単純集計結果では、どちらの商店街も女性が圧倒的に多く、特に八代市ではその傾向が顕著であった。年齢についての結果を併せて考えると主婦層が多いのではないかと推測される。

続いて図7の商店街までの交通手段についての単純集計結果を見ると、自動車による来客がどちらの商店街でも約半数に達していた。また八代市では徒歩と自転車/バイクの割合がほぼ同じなのに比べ、フェルトホーヘン市では後者の割合が圧倒的に高く全体の約1/3を占めていた。

さらに図8の商店街での買物頻度についての単純集計結果によれば、少なくとも週に1度は訪れる客の割合がフェルトホーヘン市の方が高く、八代市よりも日常的によく利用される商店街のようである。

最後に図9の歩行者の計画性についての単純集計結果の場合には、質問表において八代市のACを計画的つまり商店街を訪問することを事前に計画していた歩行者、Dを非計画的つまり事前に訪問することを計画していなかった歩行者として集計すると、八代市の方が非計画的な歩行者の割合が高い。つまりぶらぶら歩きやウインドーショッピングをする歩行者の割合がフェルトホーヘン市よりも高いのではないかと思われる。

35 クロス集計結果

ここでは、まず八代市とフェルトホーヘン市の商店街内での歩行経路の実測データに第2章で説明した個々の歩行者のヒューリスティックを判定する方法を適用し、個々の歩行者が使用したヒューリスティックを判定する。次に、判定結果から得られた個々の歩行者の時間的ヒューリスティックおよび空間的ヒューリスティックと、歩行者の他の属性との2元および3元のクロス集計を行った。また、ここでは立寄り店舗数が2以下の歩行者のデータは除外して集計を行った。その理由は、立寄り店舗数が2以下の歩行者は空間的ヒューリスティックの判定でIDOに成り得ないからである。除外した結果のデータ数は八代市が97、フェルトホーヘン市が255である。集計項目は、年齢及び性別と時間・空間的ヒューリスティックの3元クロス、商店街での買物頻度と時間・空間的ヒューリスティックの2元クロス、商店街までの交通手段と時間・空間的ヒューリスティックの2元クロス、商店街での買物頻度と商店街までの交通手段の2元クロス、歩行者の計画性と時間・空間的ヒューリスティックの2元クロス、立寄り店舗数と時間・空間的ヒューリスティックの2元クロス、空間的ヒューリスティックと時間的ヒューリスティックの2元クロス集計である(図1016参照)。

36 クロス集計結果の考察

35で行った個々の歩行者のヒューリスティックと他の属性との2元および3元のクロス集計結果について考察する。まず、図10年齢および性別と時間・空間的ヒューリスティックの3元クロス集計結果については、データ数が少ないために他と比較するのが困難な八代市の男性を除けば、年齢が上昇するほど時間的ヒューリスティック(その他以外)を用いる、つまり戦略的な買物行動を行う傾向が八代市、フェルトホーヘン市を問わず見られる。また、空間的ヒューリスティックとの関係では、明確な共通点および相違点は見られなかった。

11商店街での買物頻度と時間・空間的ヒューリスティックの2元クロス集計結果では、フェルトホーヘン市で、商店街での買物頻度が少ない歩行者ほど時間的ヒューリスティックでGDMおよびその他(時間的ヒューリスティック無し)が多い、つまり寄り道をしている可能性が高くなる。逆に八代市では、買物頻度が多い歩行者ほどGDMやその他が多い、つまり寄り道をしている可能性が高くなる。また、空間的ヒューリスティックとの関係では、明確な共通点および相違点は見られなかった。

12商店街までの交通手段と時間・空間的ヒューリスティックの2元クロス集計結果では、バスとその他を除く商店街までの交通手段の違いを家から商店街までの距離の違いとみなし、徒歩が最も短く、自転車/バイク、自動車の順で距離が長くなるとすると、フェルトホーヘン市では家から商店街までの距離が遠いほど、時間的ヒューリスティックでGDMおよびその他(時間的ヒューリスティック無し)が多い、つまり寄り道をしている可能性がある。逆に八代市では、家から商店街までの距離が短いほど、時間的ヒューリスティックでGDMおよびその他が多い。つまり寄り道をしている可能性がある。また、自動車を使用した歩行者は、徒歩や自転車/バイクを使用した歩行者に比べ空間的ヒューリスティックでFDOを用いる可能性が低くなる傾向が双方の都市において見られる。

13商店街での買物頻度と商店街までの交通手段の2元クロス集計結果を見ると、商店街で買物をする頻度が多い歩行者ほど徒歩や自転車/バイクの使用率が高く、買物をする頻度が少ない歩行者ほど自動車の使用率が高くなる傾向が双方の都市で見られる。つまり商店街からの距離が近いほど買物頻度が多くなる傾向がある。このことは、家から商店街までの距離と商店街での買物頻度が密接な関係にあることを示唆しているものであり、11商店街での買物頻度と時間的ヒューリスティックの2元クロス集計結果と12商店街までの交通手段と時間的ヒューリスティックの2元クロス集計結果で、GDMおよびその他(時間的ヒューリスティック無し)を合計した場合のグラフの変化状況が共に対応していることを裏付けるものである。

14歩行者の計画性と時間・空間的ヒューリスティックの2元クロス集計結果を見ると、計画的な歩行者つまり事前に商店街を訪れることを計画していた歩行者は、非計画的な歩行者に比べ、時間的ヒューリスティックでその他(時間的ヒューリスティック無し)の可能性が若干低くなる傾向が双方の都市で見られる。また空間的ヒューリスティックでは、どちらの都市においても、計画的な歩行者は非計画的な歩行者に比べFDOの割合が増えている。

15立寄り店舗数と時間・空間的ヒューリスティックの2元クロス集計結果の場合では、立寄り店舗数の増加に伴って、時間的ヒューリスティックでその他(時間的ヒューリスティック無し)の可能性が高くなる傾向が双方の都市で見られる。また空間的ヒューリスティックでは、どちらの都市においても、立寄り店舗数が増えるほどFDOの割合が減っている。

最後に、図16空間的ヒューリスティックと時間的ヒューリスティックの2元クロス集計結果については、双方の都市の間に明確な共通点および相違点は見られなかった。

 

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