都市景観の類型と景観評価構造把握による 景観保全手法に関する研究

Study on the Landscape Preservation Method Using Classification and Evaluation Construction of Urban Landscape

 

第3章 都市景観における問題景観判断手法の構築

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3-5 視覚的構造と意識構造の合成による問題景観の判断

 

3-5-1 問題景観判断の総合得点算定


 メッシュごとに問題景観の判定得点の算定するには、上記の重みをメッシュデータに適用する。階層図(図3−5)のレベル5の29項目( Ej )に累積された重み( EWj )にメッシュ( i )のEj項目の有無( RCij )を乗じた和を、メッシュの総合得点( TCi )とし、次式のように算定する。なお、RCijは表1のカテゴリーと同じ分級で、「建物状況」の項目は、例えば、住宅は高中低の三段階に分けてランク化されている。他の項目、ランクではなく、当該項目の有無によって算定される。但し、レベル2の「可視地域の状況」、「可視距離」、可視地域内で見られる「都市計画法規」などの項目の場合、視野角比によるランク( RAij )を乗じた和を計算する。そのカテゴリーの分級は各景観判断要素の視野角比を5段階に分けて作成したものである。算定方法をまとめると、各メッシュに対して景観判断要素( Ej )が「視点の状況」の場合は式3−3で、累積重み( EWj )に判断要素のランク( RCij )を掛けて値( TCi1 )を求める。「可視地域の状況」、「可視距離」、「都市計画法規」の場合は式3−4で、累積重み( EWj )に判断要素のランク( RCij )、視野角比のランク( RAij )を掛けて値( TCi2 )を求め、その合計を総合得点( TCi )とする (式3−5参照) 。

3-5-2 問題景観の評価


 総合得点の分布をメッシュの標高(平野部・山地部:標高100mを境にして)別に見ると(図3−6参照)、1.0000〜1.5000 (計:3066メッシュ) の範囲では、平野部が半数ほど見られるが、総合得点1.5000以上からは、平野部メッシュの方が多くなり、2.7500以上の場合、平野部メッシュが多く見られる。そして、総合得点の分布をメッシュの土地利用(市街化地域・緑地地域)別に見ると(図3−7参照)、1.5000以下 (計:3066メッシュ) は、全てが緑地地域である。従って、問題景観の判断潜在度が低いメッシュは、平野部の緑地地域であることが予測される。この場合、特に緑地地域は開発制限地区である。3.0000以上からは、市街化地域メッシュが多くなり、3.7500以上の場合、7割くらいみられる。これで、問題景観判断の潜在度が高いメッシュは当該メッシュの土地利用・標高に密接な関係があると予測できる。図3−8は階層図(図3−5参照)のレベル5の項目において、景観判断要素のカテゴリー中、最高カテゴリーに該当し、視野角比が最高に該当するメッシュが取りえた評価得点の最大値と最低カテゴリー、最低視野角比に該当するメッシュが取りえた総合評価得点の最小値から生じるレンジを示す。ここで最高カテゴリーとは、例えば、表3−1の「建物の状況」の住宅は三つのカテゴリーに分け、その3番目カテゴリー、ここでは高密度の住宅をいうことである。但し、レベル2の「可視地域の状況」、「可視距離」、「都市計画法規」の要素の場合は、その要素によるカテゴリー( RCij )に併せ、該当メッシュの視野角比によるカテゴリー( RAij )をかけたものである。
 問題景観判断の潜在度の算定結果、「視点の状況」では、「市街地地域」中にある「海岸」の場合、問題景観判断値が高い。そして、「可視地域の状況」の場合、「地形的状況」ではその中でも「山」(最高値:0.2465)、「海」(最高値:0.2050)、は問題景観判断値が高い。可視範囲を5km以内として見た場合、全メッシュの殆どから山が見られる釜山では山が多く望める地域が問題景観判断潜在度の方も高くなると予測できる。これから、釜山市の都市景観における山・海の視覚的影響がかなり高いことが確認できる(図3−10参照)。「建物状況」の場合、各要素に対するメッシュの判断値に非常に大きなバラツキが見られる。これらは、当景観判断要素が250mメッシュ内で、高密・面的に見られるものを第3カテゴリーとしてあげているので(特に、アパートの場合、量的に分けてカテゴリー化している)、「建物の状況」の要素から問題景観判断値はバラツキが大きくなるし、従って問題景観判断力も非常に高く評価される。その中でも、「高層アパート」の判断値の最高値が1.0647で、最も高い。
図3−11は、高層アパートによる問題景観判断値の分布を示す。高層アパートは釜山の市街化地域内に広く散在しているので、高い判断値(0.7001-1.0647)で判断されているメッシュを見ると、釜山市の海岸東部の近年計画された海雲台新市街地周辺、都心中心部の山谷間、海辺の住居地域が抽出できた。他の要素の判断値に比べ高い0.30001-0.5000の地域はかなり広範囲に現れる。これは、可視面積を計算する際、視野角比が高くなる傾斜地もしくは山地における高層アパートの立地が大きく関わっている。
 「ビル」の判断値の最高値は0.9060、「工場」の判断値の最高値が0.5536、「港湾」の判断値の最高値が0.3597などであって、「可視地域の建物状況」から問題景観の判断潜在度が左右されることが明らかになった。また、「可視地域の緑地状況」では「山林」が高く評価され、山林が多く見られる地域で問題景観と判断力が高く、「都市計画法規」で「市街化地域」では「住居地域」、そして、「緑地地域」の「純粋緑地地域」が高く判断される。



図3−9 可視地域の地形状況における総合得点(TC812)

 

図3−10 高層アパートにおける総合得点(TC14)

 

3-5-3 問題景観のランク化


 これからの得点を5つのランクに分け、次のように5ランクで判定した注14)。

(1)ランク A (0.8700-2.0000以下) : 総合得点が低く、問題景観と判断される潜在度が低いため、問題景観が見られない地域でもある。その分布は市街化地域の外側にある開発制限区域及び緑地地域で、特に、可視地域の建物状況、都市計画法規の判断値が低い。

(2)ランク B (2.0001-2.7500) : 得点は低いほうであり、可視領域内に遠景に建物もしくは市街地地域が見られる、開発制限地区、緑地地域、住居地域に分布している。

(3)ランク C (2.7501-3.1000) : 住・商・工業地域と市街地地域周辺の緑地地域に幅広く分布して、かなり、問題景観判断値が高い地域である。

(4)ランク D (3.1001-3.5000) : 問題景観の判断値が高い地域であって、都心部の住居地域、専用工業地域、都心外部商業地域などが見られる。そして、市街地に近接している山地地域、そして、海岸を含む地域で、問題景観と判断される潜在度が高い地域と判断される。

(5)ランク E (3.5000-4.1735) : 問題景観の判断値が最も高い地域で、その分布を見ると、中央部にある都心中心商業地域とその周辺、海岸を含む都心中心部地域と港湾施設周辺、東部の新市街地、西部の部都心地域などである。可視領域内における建物による判断値が非常に高い。

その分類を釜山市250mメッシュ図に示したものが図3−12である。

 

図3−13 総合得点(TCi)

 

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